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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)5462号 判決 1978年9月05日

原告 高野サク 外七名

被告 国

主文

一  被告は、原告高野サクに対し金一四一四万五六円、原告高野正信、同高野軍司、同高野信夫、同青木あき、同飯田文子、同福田千代子、同今井芳子それぞれに対し各金一〇一万四円及び右各金員に対する昭和五〇年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  亡正男が本件事故当時、陸上自衛隊第三三一会計隊所属の自衛官で一等陸士であつたこと、原告ら主張の日時場所で、市川一尉運転の本件事故車が対向走行してきた訴外鈴木啓司運転の八トントラツクと衝突し、そのため本件事故車に同乗していた亡正男が受傷し、翌日死亡したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない乙第二号証、証人市川和夫の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故当日、岩見沢の第三二七会計隊から臨時勤務者(車両操縦手)として派遣されてきていた田中一等陸士が勤務期間が終了したので同人を原隊に送り届けることになつたが、当時第三三一会計隊には自衛隊の車両操縦手の資格を有している者がなく、幹部で公安委員会の運転免許を有している高沢二尉も当日不在であつたのと業務連絡の都合上同じく公安委員会の運転免許を有している右会計隊長の市川一尉が自ら運転して行くこととし、その際会計隊長である同人として、約一か月前に公安委員会の運転免許を取得し、将来操縦手の資格を取得させようと考えていた亡正男に、その教育準備として道路状況の把握、車両操縦の実地の見学、第三二七会計隊の見学等のほか運転助手を勤めさせる目的で同乗を命じ、右第三二七会計隊に田中一等陸士を送り届け、帰隊する途中に本件事故が発生したものであることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

三  ところで、被告国が一般的に公務遂行のために設置すべき施設若しくは器具等の設置管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき、いわゆる安全配慮義務を負つていることは当事者間に争いのないところであるが、被告の右義務は被告が公務の執行のための人的物的設備及び勤務条件等を支配管理していることに由来するものというベく、従つて本来の職務権限ないしは上司の命を受けて右支配管理の業務に従事している者は被告の右安全配慮義務の履行についての履行補助者にあたるものと解するのが相当である。

前記認定事実によると、市川一尉は会計隊長としてその部下である亡正男に教育準備として、車両操縦の実地見学をさせる等のため同乗を命じ、車両運転を指導教育していたのであるから、亡正男に運転させ、かたわらで指導教育をしていた場合と同視することができ、従つて市川一尉は事故当時亡正男の上司として支配管理の業務に従事し被告の安全配慮義務の履行補助者として亡正男の生命及び健康を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つていたものというべきである。

ところが、市川一尉は本件事故車を運転して時速三五ないし四〇キロメートルで本件事故現場にさしかかつた際、当時路面が降雨のため濡れていたばかりでなく、舗装が新しいため油がしみ出ていて、極めてスリツプしやすい状態にあつたのであるから、市川一尉としては進路を十分注視し、危険な場合にはいつでも急停車してスリツプ事故を避けることができるよう減速徐行の措置をして事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、かえつて加速して走行した過失により道路中央線を越えて反対車線に進入させたため発生したもので、右の事実は当事者間に争いがなく、前記乙第二号証によると、事故時における本件事故車の時速は四五ないし五〇キロメートルであつたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

そうだとするならば、右の点において履行補助者たる市川一尉において安全配慮義務の不履行があつたものというべく、原告らのその余の主張について判断するまでもなく、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

四  (損害)<省略>

五  (結論)<省略>

(裁判官 小川昭二郎 片桐春一 金子順一)

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